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クリニカルシーケンス インタビュー⑥

遺伝子と生活をつなげるバイオバンク

愛知県がんセンター研究所
遺伝子医療研究部
松尾 恵太郎 先生


近年、ゲノム医療がますます注目される中、治療だけではなく予防に関する研究も行われています。
本インタビューでは、最先端の研究に取り組まれている先生に、ご研究内容についてお話を伺います。

◆先生のご研究について、簡単に教えていただけますか

 私の研究のターゲットはがんです。特にがんの種類や臓器に関してこだわりということはなく、「がんの予防」に通じるものを見つけることを目的としています。これには、環境的なものと遺伝的なものの二種類がありますが、どちらかということではなく、両方を検討することで遺伝子を知って生活を考え予防につなげられたらいいなと思い、予防につながるエビデンスを出すための研究をしています。
 例えば、フェニルケトン尿症という遺伝病は、食事療法によって血液中のフェニルアラニンを一定の値にコントロールできれば、発症しません。純粋に遺伝病と呼ばれるものの中にも、環境を配慮することで病気の予防につなげられることがあるのです。           

◆環境要因と遺伝要因の研究について、先生のアプローチ方法を教えていただけますか

          

愛知県がんセンターでは、1988年から病院の外来において病院疫学研究を続けてきており、2001年から生体試料を集め始めました。現在、外来患者の試料を集めるバイオバンクがいろいろなところで実施されていますが、そのプロトタイプをやってきたという経緯があります。
2001年から2013年までの13年間、アンケートのみだと約4万5千人、生体試料としては約2万8千人のDNAや血清、血漿という形での検体を集めており、臨床研究や予防につながる疫学研究に使ってきました。
当センターは、昔はがんではない患者様も割合多くいらっしゃったので、がんの方とがんではない方を比較する症例対照研究を実施できます。また、がんでない方を対象に、どういう世代でどんな生活習慣をしているか、どういう遺伝子を持っている人がどんな生活習慣を持ちやすいかといった横断研究も実施しています。患者コホート治療以外の予後因子を探す研究も実施しています。
 また、疫学研究は国際共同研究への参加も盛んなのですが、バンキング情報と生体試料を使用して、強みを生かした国際共同研究にも参画しています。

◆近年の成果について教えてください

         
遺伝子医療研究部のメンバー

 当センターは、ALDH2(アルデヒド脱水素酵素2)の遺伝子多型と飲酒習慣が組み合わさった際に、ある特定のがんが非常に増える ということを研究しており、食道がんと頸部がん、あと新たに胃がん、膀胱がんともそういう関連があるのではないかということがわかってきました。自分の遺伝子型を知ることで生活習慣を変え、リスクを下げる、コントロールできるというところが、私自身がこれまで積極的に取り組んできたところです。
 また、先ほども触れた国際共同研究にはかなり積極的に取り組んでおり、例えば BCAC(Breast Cancer Association Consortium)という乳がんに関する国際共同研究がありますが、全ゲノム関連解析は欧米が主体で始まったため、日本でのエビデンスが限られているという時期から参加していました。西洋人ででてくる結果がアジア人に対しても同様であるかということで、アジア人のデータに基づいた研究に関わってきました。

◆国際共同研究での難しさやご苦労はありますか

 まず、最初に知り合いになるのが大変です。日本でこのような研究をやっているので、ぜひ参加させてほしい」と研究グループにお声がけし、そこで個人的に自分の研究を紹介しながら、信頼できる疫学データと遺伝子情報を持っているとアピールしました。すると、当時は、そのように積極的にアプローチしてくるところは少なかったようで、是非一緒にやろうと言ってもらえました。相手によると思いますが、私がお付き合いしているチームは割とオープンに受け入れてくれました。
 実際の研究での難しさですが、例えば乳がんのコンソーシアムの場合、世界中の研究グループがコンソーシアムの中で開発されたカスタムチップを使って、3か所ほど設置されたジェノタイピングセンターへサンプルを送っていきます。コンソーシアムの事務局によって、コーディネーション力は様々ですが、乳がんのコンソーシアムはQC(クオリティコントロール)に関しても、かなり細かい基準が設けられていました。私たちは割と優等生でQCはすんなり通りましたが、その部分で苦労している研究チームもあったようです。愛知県がんセンターのような県立がんセンターは、国家プロジェクトを背負うようなところではないですが、それでもこつこつとやっていくことで世界に多少は貢献できるのではと常々思ってきました。加えて、当時はあまり国際共同研究チームに日本が参加していることが少なかったので、日本でもゲノムの疫学研究をやっているんだと旗を立てたいという気持ちもあり、これまでのモチベーションとしてきました。

◆バイオバンク参加者はどのような期待を持って登録されるのでしょうか

 バンキング参加者には、はじめに「あなた個人としてのメリットになるかわかりませんが、お子さんやお孫さんのためにドネイションしませんか」というようにお声がけしています。幸い愛知県民の方は志の高い方が多くいらっしゃり、うまくやってきました。今後の構想として、血液提供してくださった方に、例えば ALDH2のジェノタイプと、それに基づいたお酒との付き合い方をセットでフィードバックすることで、バイオバンクという仕組みに参加してくれたお礼とすることを考えています。
 疫学研究が一人二人ではなく、万人単位を相手にするため、研究段階で個々人の方を意識することは実はないんですが、疫学研究としてこれまでやってきたものに関しては、できれば顔が見えた付き合いをという思いをもって、「万人単位の中に、個人の顔をみている」という気持ちで取り組んでいます。

◆今後ゲノム医療はどのような方向を目指すべきだとお考えですか

 ゲノム疫学に関していうと、これまでに蓄積してきたものをそろそろなんらかの形で使えるようにしていくことが必要になってきてくると思います。ゲノム配列がわかり、たくさんリスクに関するSNPが見つけられているという割に、「私たちの予防って何か変わったの」と言われると、何も変わっていない状況と言えます。商業で遺伝子検査を行う会社も増えていますが、我々アカデミアの、特に、疫学研究として取り組んでいる立場から、例えばがん検診とのセットで、この遺伝子ならこのように生きていくほうがよいとか、あるいは生活習慣のどの部分を変えられるかなど、その人の行動を変化させるアドバイスを伝えていけたらと考えています。「プレシジョン・メディスン(精密医療)」という言葉がありますが、「プレシジョン・プリベンション(精密予防)」のようなことができたら、最も望ましい展開と考えます。
現在AMEDからサポートしていただいて、乳がんに関するリスクフィードバックに基づく予防介入検診をやろうとしているのですが、そういうことを皮切りに少しずつ個々人の行動を変化させるエビデンスというのも積み重ねていきたいと考えています。

◆先生からデータ解析の会社に期待することはありますか

 解析内容から手法までこちらで知っている解析を依頼する場合は、こちらの意図と齟齬なく進められると思いますが、例えば、私たちが取り組んでいるGWAS解析に関して、こんな最新の解析方法や切り口が使えるようにようになりましたと、提案してもらえるとありがたいです。インフォマティクス出身者でしたら、絶えず新しい手法に興味をもち追いかけるかもしれませんが、私たちは「こういうものが見つかった」ということに興味が向くため、そういった専門的な部分をカバーしてほしいと思います。アメリエフの様々な活動が刺激的で、積極的に展開されていて心強いと思っています。これからもパートナーとして、お付き合いしていきたいです。

インタビュー:2016年12月