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ライフサイエンス インタビュー⑤

レトロウイルス研究におけるバイオインフォマティクスの活用


熊本大学 国際先端医学研究施設 エイズ学研究センター
未来生命科学開拓部門
佐藤 賢文 先生


レトロウイルスは、感染した細胞ゲノムにウイルスのゲノムDNAを挿入するというユニークな特徴を持っています。近年、飛躍的な進歩を遂げている次世代シークエンス技術を活用することで、従来の方法では解決出来なかったレトロウイルスに関する謎を明らかにするブレイクスルーが生まれることが期待されています。

◆先生のご研究について、簡単にご紹介いただけますか

 エイズの原因ウイルスであるHIV-1や白血病の原因となるHTLV-1などヒトの様々な病気の原因となっている外来性のレトロウイルスの研究を行っています。ウイルスは自分自身では増殖することが出来ず、宿主となる細胞のシステムを利用して増殖していく微生物です。ウイルスの中でも、レトロウイルスは宿主細胞のDNA ゲノムに対してウイルスゲノムを組み込むことで、感染を拡大していくという独特の戦術をとります。その様なヒトのゲノムに組み込まれたウイルスが、“いかにして感染者に病気を起こすのか?” あるいは “いかにして宿主免疫や抗ウイルス薬から逃れ慢性持続感染を成立させるのか?” などの疑問に答えるために現在研究を行っています。上述した疑問に答えていくためには、ヒトゲノムの “どこに、どのような状態でウイルスDNAが組み込まれているのか?” そして “組み込まれたウイルスDNAがどのような仕組みで発現制御されているのか?” などを明らかにする事が重要であり、次世代シーケンサーを活用した研究を進めています。
 レトロウイルスはウイルスゲノムRNAが1万塩基に満たない極めて小さい微生物です。そのため、従来の塩基配列決定法でもウイルスの全配列を決定することが可能で、HIV-1やHTLV-1の全塩基配列は1980年代に既に決定されています。しかし、約31億塩基対あるとされる広大なヒトゲノムDNAの中からレトロウイルスの組み込み部位を見つける事や感染者の数百から数千以上の異なる場所に組み込まれた様々な感染クローンが混在している状況をより正確に知るためには、次世代シーケンスの技術が必要不可欠となってきます。

◆先生が研究に取り組まれる際のモチベーションを教えてください

研究室での発表会のご様子

 私はもともと内科医として臨床に関わっていて、がんや白血病の患者さんを診てきました。診療に携わる中で、まだまだ救えない患者さんも多いということを目の当たりにし、病気の仕組みについてより深く知る必要性を感じました。そこで、新しい治療法や診断法を開発することで医療の発展に貢献したいという気持ちで、当時京都大学ウイルス研究所の教授でおられた松岡雅雄先生のもとで研究に取り組み始めました。したがって、新たな治療法の確立、特にウイルス感染症の治療に貢献したいという臨床医としての経験がモチベーションの源泉の1つです。
 また、研究を行う中でウイルスとヒトのそれぞれの実に巧妙な生き残り戦術に気が付くことがあります。まだ誰も気付いていない新しい仕組みを見つけたときは、研究生活の中で最もエキサイティングな瞬間です。そのような未知なものに対する探究心、あるいは知的好奇心が、もう一つのモチベーションになっています。

◆海外での研究のご経験をお持ちでいらっしゃいますが、日本と海外の研究環境の違いは感じましたか

 私は、今から4年半前に熊本大学に赴任しましたが、その前はイギリスのインペリアルカレッジで研究をしていました。そこでまず感じたのは、研究スタンスが日本とはだいぶ違うなということです。イギリスでは研究をやる前にディスカッションを通して、様々な可能性を十分に考慮し、研究の仮説を絞り込んだ上で実験段階に移るため、研究の効率がとてもいいと感じました。イギリスの人たちの議論を好む国民性というものが影響しているかも知れません。それに比べ日本では、勤勉な国民性、労働を美徳とする価値観からか、こつこつ実験をこなすことがより重要視され、まず実験をやってみてその結果から何か新しい発見を得ようというアプローチが多いと思います。一概にどちらが優っているとは言い難いですが、いろいろなやり方がある事を知ることが出来たのは良い経験になりました。
 また、インペリアルカレッジは世界のトップ10に入る大学という事もあり、研究プロセスの分業化が非常に進んでいました。例えば、シーケンスをしてほしいと思った時に、シーケンスやバイオインフォマティクスのコアラボラトリーがあって、そこにサンプルを出せばすぐにシーケンスや解析をやってくれます。この様な分業体制は一般的なRNA-seqやExon-seqなど行う際にはとても効率が高いと思います。
 私が熊本で研究を始めた時には、レトロウイルスの組み込み部位を調べるという特殊な解析系を立ち上げる必要がありました。通常のNGS解析に比べ、かなりカスタム性が高く標準的な解析パイプラインは確立されていない状況でデータ解析の外注が不可能でした。そのため、アメリエフに相談し解析サーバを導入するとともに、解析プログラム作成を依頼しました。最初に納品して頂いてから、担当の方と密にやりとりしながらの長い最適化作業が続きましたが、最終的に満足のいく解析パイプラインが確立できて感謝しています。自分でも理解しながら解析フローの最適化を進めるというのは時間のかかる作業でしたが、出力データがどのようなプロセスを経て作られたものかを知ることは結果の解釈や、研究を更に発展させようとする際には、大きな強みになると思います。

◆現在どのようにバイオインフォマティクスを活用されていますか

 最初にアメリエフに相談した解析は、前述のようにウイルスの組み込み部位を調べるものでした。その後、通常のChIP-seqやRNA-seq解析を始めることになり、その解析にもアメリエフの解析サーバを活用しています。また、ウイルスの解析を効率的に行うために、最近DNAプローブを活用したターゲットシークエンスの手法を確立しました。その発想に至ったのも、自分でデータ解析に取り組むことで、ウイルス配列の存在率が極めて低いことを実感し、このままでは効率があまりにも低いと考えたからでした。解析全てを外注していたら、そのような発想にはならなかったと思います。
 現在では、ゲノミクスの解析だけではなくて、トランスクリプトームやエピゲノムなどオミックスを統合的に解析するために、バイオインフォマティクスを外来性ウイルスの研究に生かしています。

◆先生のご研究のこれからの方向性について教えてください

 HIV-1 や HTLV-1 などのレトロウイルスは一度感染が成立すると、抗レトロウイルス薬や抗ウイルス免疫があるにもかかわらず、ウイルスが感染者体内から完全に排除されることはありません。これまでに築いてきたターゲットシーケンスを用いた次世代シークエンス解析技術を活用して解析精度を飛躍的高めることで、その様なウイルスの持続潜伏感染の仕組みを紐解いていきたいと考えています。
 医師としての実践的なゴールとして、将来的にはそれらの研究を通し、治療や診断方法の開発につながるような知見を得たいです。基礎研究者としてのアカデミックなゴールとしては、ウイルスや免疫についてわかっていないメカニズムを突き止めたいです。その目的のためにも、バイオインフォマティクスの重要性は、今後ますます高まっていくと考えています。

◆先生が今後アメリエフのようなデータ解析の会社に期待することはありますか

 最近では日本の大学や研究所にも次世代シークエンス(NGS) がかなり普及し、シークエンスに要するコストも年々減少し、より多くの研究者がNGS解析を行うことができる状況になってきています。しかし、私もそうであったように、シークエンスは出来てもデータ解析の部分で多くの方が困っておられるようです。そのような状況でNGSデータ解析や、解析サーバ、解析パイプラインの必要性は今後益々高まり、データ解析の依頼が増えると予想しています。
 また、NGSで得られるデータ量がどんどん大きくなり、最近ではシングルセルの解析も普及しつつあります。そうして膨大なデータが得られてくると、従来の医学、生物学的知見に基づいた解析では、気付くことが無い隠れた意外な知見を埋もらせてしまっている事がたくさんあると思います。より専門的なバイオインフォマティクスの力で、ビッグデータに埋もれている新知見や新仕組みを見つけ出してくれたらすばらしいと思います。

インタビュー:2017年10月