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ライフサイエンス インタビュー⑤

ゲノムとエピゲノムのコホート研究から、ゲノム情報による予防医学を可能に

いわて東北メディカル・メガバンク機構
生体情報解析部門
清水 厚志 先生


近年、ゲノム医療がますます注目される中、治療だけではなく予防に関する研究も行われています。
本インタビューでは、最先端のご研究に取り組まれている先生に、ご研究内容についてお話を伺います。

◆先生のご研究について、簡単にご紹介いただけますか

 ゲノム情報とオミックス情報を活用した「予防医学」の実現をテーマに研究を進めています。ますます高齢化社会になりつつある昨今、健康で長生きという形ではなく、例えば、高血圧、糖尿病、がんなど様々な疾患に罹りながら寿命が延びているという状況です。その一方で、保険適用等がかさみ、国の支出も増え、疾患を抱えることでクオリティオブライフが下がる方が多いのも現実です。こういった課題を解決しながら健康で長生きができる社会にするために、生活習慣や個別化医療、個別化予防という形で、一人一人にあった「予防医学」を進めていく、という目標をメガバンクとして掲げています。

◆個別化予防に関しては、あまりエビデンスが揃っていない状態だと思います。やはり、エビデンスを積み上げることが第一目標でしょうか

 今、多くの企業がDTCの遺伝解析を実施していますが、ほとんどがGWAS(ゲノムワイド関連解析)研究で扱っている多型の有無で病気の罹りやすさを判断する検査になっています。GWAS解析で算出できるのはあくまでもオッズ比だけであって、リスク比の計算はコホート研究以外ではできません。ですから、我々はコホート参加者のゲノム解析や多型解析をした上で、それぞれの多型を持っている方のリスクを計算してエビデンスを出していくことを目的としています。

◆現在の研究テーマを選ばれた経緯を教えてください

 次世代シークエンサーとの出会いは、前職場の慶應義塾大学医学部で関わったヒトゲノム計画でした。私はポスドクとして、コンピュータ解析を主な仕事とし、ヒトゲノム計画から単一遺伝子疾患を対象に研究を進めていました。ヒトゲノムが解明されたこと、さらに2005年の次世代シークエンサーの登場で一気に連鎖解析が加速した一方で、当時はバイオインフォマティシャンがあまりいませんでしたので、私へ解析依頼が増えてきました。その後、慶應義塾大学医学部がGA(Illumina社Genome Analyzer)を購入した際には、コアラボのような形で疾患の遺伝子解析のサポートを担当し、疾患ゲノム解析やエクソーム解析を行い、これを機に講演などもさせていただきました。しばらくして、単一遺伝子疾患の解析パイプラインを完成させることができたので、あとは誰かが維持すればよいだろう、というところまで来ました。次はどうするか、ということを考えていた時に、ちょうど東北メディカル・メガバンク計画が立ち上がり、東北大学と岩手医科大学を拠点に個別化医療・個別化予防の調査が開始されることになりました。そこでゲノム解析を行うので解析ができる人が欲しい、ということで岩手医科大学拠点のいわて東北メディカル・メガバンク機構にお声掛けいただきました。当初は、数千人のゲノム解析をする予定でしたが、異動してみると、ゲノムは扱わないことになったためエピゲノムをやることになりました。異動後いきなりテーマが変わった上に、私はエピゲノム研究の経験がなかったので、最初は大変苦労しましたが、なんとか今立ち上げたという経緯です。

◆着任されてから、全く知らない分野での立ち上げですね。どのようなご苦労がありましたか

 そもそもエピゲノムの知識が大学生程度しかなかったので、DNAのメチル化やクロマチンなどを勉強した上で、僕らのチームで何ができるのかを考え、DNAメチル化解析に着目することにしました。しかし、メチル化の実験経験があるメンバーは誰一人いなかったので、最初は小規模な実験を重ね、メチル化解析の方法の研究、ソフトウェアのリサーチ、パイプラインの開発等を短期間で行わなければなりませんでした。

◆さらに、医学の世界に入るということで、新たなチャレンジですね

 医学部での研究はしていましたが、分子生物学の分野でしたので、研究の対象となった個々の疾患のみを深く掘り下げる形で進めていました。しかし、今回メガバンクが取り組む予防医学に足を踏み込む際には、より網羅的な医学知識を身につける必要がありました。それぞれの疾患の生物学的な知識から、一般的な標準治療法、血液検査での病気の検知方法など、勉強を進めなくてはいけなかったのは大変でした。今でも苦労しています。

◆現在取り組まれているエビデンスの蓄積が実現した後は、予防医学を行う上で何に着手すれば良いとお考えでしょうか

 一つは、品質管理を保証するクリニカルガイドラインに掲載されることがエビデンスの到達点になります。これは、臨床の場で予防医療を広く行っていく上では欠かせないでしょう。我々が扱っているゲノム情報は、手渡しできるものではなく、匿名化やセキュリティーを担保した上で扱う必要がありますから、やはり医療という形を通してやるのが正しいと思います。
 もう一つのアプローチとしては、講演や講習会を通した社会人への教育・啓発の場を設けることです。そこで、みなさんに健康で長生きできるための知識を伝えられると思います。

◆予防医療にお金をかける文化があまりないと思うのですが、予算的な部分はどのように対処したらよいとお考えですか

 エビデンスの蓄積については、国からお金を頂いていますが、実施する際の保険適用は難しいと思います。しかし、ゲノム情報を個人の方が活用できるようになれば結果的に病気にかかりにくくなるので、個人の負担が減ると思います。例えば、普段の生活の中で、塩分摂取に気をつけることや運動が必要であることは、あくまで一般的な予防であって個別化予防ではないですよね。ゲノム配列の取得が将来的にある程度一般化されると、それを使って自分自身の生活を自分の遺伝子型に基づいて変えることができます。ゲノム解析を自治体が多少サポートするというのは始まっているので、個人のゲノムに基づいた予防がかなり効果的であるというエビデンスが蓄積されていくと、国や自治体が金銭的に支援するような取り組みは増えていくのかなと考えています。

◆個別化医療に関して、品質管理以外にも、個人情報に関する課題などがあると思います。気をつけなければいけないテーマとして、どのようにお考えですか

 古くて新しいテーマとしては、家系員の情報です。一番最初のパーソナルゲノムとしてジェームズ・ワトソンのゲノムデータが公開された時に、彼が持つ疾患関連遺伝子の情報も公開されることになるため家族の承諾が必要かどうかという話がありました。自分のゲノム情報は自分だけのものではなく、親御さんの半分とお子さんの半分もあります。それが自分のゲノムは自分のもので、自分がすべて取り扱う権利があると思い込むのは違うということを認識してもらう必要があります。我々が取り組みの一つとして行っている遺伝講習会の参加者の方には、自分のゲノムは自分と家族が関係するとお伝えしています。

◆様々な課題がある中、バイオインフォマティクスを担っている企業に対する要望はありますか

 やはり、どこへ行ってもバイオインフォマティシャンが足りないという現状があります。技術的に定型解析ができないところに対しては、どんどんアメリエフが受注して定型解析を行っていくことが良いと思います。パイプラインやソフトウェアの開発等は、逆にアカデミアできちんとやらなければいけないと考えています。
 また、博士号を取ったポスドクなど若い研究者でアカデミアを選ばなかった方への雇用の受け皿としての役割も期待しています。

◆予防医学についてどのような未来を予想されますか

 どのような議論がなされるにしろ、最後には個人のゲノム情報に基づく生活習慣改善、治療が実現すると思います。すごくシンプルに言うとコンビニ弁当やファミレスのメニューに2Dバーコードがついて、スマホのようなものでデータを取り込むと「今週は飽和脂肪酸のとりすぎですので控えましょう」とか「次の駅まで歩いてみましょう」とかアドバイスをくれるデバイスができるだろう、と。私たちも、これから数年で、ゲノムとエピゲノムのコホート研究という分野で今まででてこなかったような世界を示すことができると思っています。

インタビュー:2016年8月