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クリニカルシーケンス インタビュー②

臨床現場での運用上のジレンマをシステムで解消する

北海道大学病院臨床研究開発センター
生体試料管理室
西原 広史 先生

臨床現場での活用を目的としたクリニカルシーケンスを実施される病院や研究施設が増えています。
本インタビューでは、レポートシステムを導入された先生に、ご研究内容とクリニカルシーケンスの取り組みについてお話を伺います。

◆先生のご研究について、簡単にご紹介いただけますか

 研究テーマはがんのクリニカルシークエンスの臨床実装ということで、全てのがんを対象として、実際のがん患者様の検体から診断するシステムを構築しています。
 現在の医療、特にがんの治療において、個別化診断がすごく進んできていますが、患者様に合わせたがん遺伝子ごとの的確な診断を行い、的確な医療サービスを提供する必要が出てきました。しかし、網羅的ながん遺伝子診断のシステムが、まだ構築できていないという状況があり、2014年頃からこのシステムの構築に取り組み始めました。

◆この研究テーマを選ばれたきっかけを教えてください

 もともと僕は病理医で、「病理とがん」というテーマを選んだのは学生時代です。病理というのは全てのがんをとり扱うので、たとえば、消化器科だと消化器、呼吸器科だと肺癌のみを診断対象としますが、病理だと全てのがんを見ることができます。癌は「人間の生きるという本能を最も具現化した細胞」だと考えているので、がんの研究を進めることで人間が生きるメカニズムがわかるという点で、研究対象として魅力がありました。

◆次世代シーケンサ(NGS)との出会いはどのようなタイミングでしたか

 僕は病理医なので、最初は免疫染色で分子の発現をパターン化させて個別化する取り組みを、数年前から行っていましたが、この免疫染色というツールでは、遺伝子の細かな異常はわかりません。
 その一方で、細かな遺伝子の異常のパターンに合わせた薬剤選定という時代の要請があり、やはり免疫染色、分子発現プロファイルということではそれに対応できなくなりました。
そのため、シーケンスして一遺伝子ずつ異常がないかを見ていくことになり、現在世の中の人達に求められている「網羅的な遺伝子の検索」という観点から20~30の遺伝子を同時に調べる必要が出てきています。そうすると、やはりツールとしてNGSを使うという流れになってきました。

◆NGSを導入したのは研究目的だったのでしょうか?

 NGSを扱うようになったのは2013年頃ですが、最初の頃は遺伝子情報の臨床への応用について、そこまで考えていませんでした。
しかし、実際に研究を開始してデータが出始めると、まず最初に、いわゆるノイズとして出てくるデータと、変異として出てくるデータを区別する難しさを体験しました。
更に、フィルタリングを行い、本当に腫瘍由来の特異的な変異だろうということが分かったとしても、それが臨床的に意義のあるものかどうかという判断をするところで、やはり非常に時間がかかるということがわかりました。
 そのため、病理診断を常にやっている身からすると、スピードアップ、正確性を向上させないと、現場では使えないと感じました。このような考えに至るまでに1年くらいかかりましたので、ちょうど2014年2月に山口さんと出会ったサンディエゴの学会のあたりで、そのような煩わしさを非常に実感していた時期でした。

◆NGSを使った研究の中で難しかったことについて教えてください

 診断と治療を行う現場のドクターというのは、とにかくまず時間がないです。非常に時間に追われている中で、本当に必要最小限の情報を得て、そして速やかに治療に移るということが求められます。そうすると、いわゆるシーケンサから出てくる膨大なデータを、逐一自分で見て解釈する時間は無い訳です。
 その解析を担当するテクニシャン、あるいはバイオインフォマティシャンにとっては、「そこに出てくるデータを見てもらえれば分かります」という感覚でデータを出してくる訳ですけど、現場のドクターはそれを細かく読む時間がないというジレンマがあるわけですね。
 このジレンマを少しでも解消するためには、より簡潔で、かつ本当に必要な情報がキチッと掲載されているレポーティングシステムを作らないと、現場にクリニカルシーケンスを活用することは出来ないということを実感しました。

◆そのためにレポートシステムを導入されたのですね

 たとえば、1週間に一人の患者様を診ればよいということでしたら、変異に対するアノテーション付与の作業を、Pubmedで一例一例手作業で検索していくことも、出来なくはないですが、クリニカルシーケンスが現場でどんどん浸透していくためには、最低限必要な情報を自動でキチッと引っ張り出してきて、アノテーションとして付けられる技術が当然必要だと思います。その機能も搭載されていたことで、アメリエフのレポートシステムを導入する運びとなりました。

◆レポートシステムをどのようにご利用いただいていますか

西原先生

 患者様の検体を採取するか、既にある検体を使用し、まずはバイオバンクに登録します。そこから、その検体が使えるというふうに判断された場合は、DNAを抽出してMiSeqでシーケンシングと解析を行います。ここで得たデータを、レポートシステムにかけることで、解析パイプラインを通してレポートを出すという流れになります。
 医療現場はやはり個々の患者様に合わせて、きめ細かく対応していかなければいけないため、チーム医療で取り組んでいます。臨床チームに専属で所属しているのは病理医2名と臨床医1名の3名です。2016年4月1日より始動する「がん遺伝子診断部」では大部分が腫瘍内科や、外来科学療法のドクターで、様々な専門医が10名以上所属しております。全例一例一例に対してカンファレンスボードを行い、そこでレポートがすべての先生方の目を通ることになります。その際、必ずしも遺伝子解析結果だけで診断や治療方針の決定を行うわけではなく、患者様の病態やこれまでの治療の経緯などを勘案して、総合的に診断や治療方針を判断します。場合によっては、遺伝子解析結果ではこの薬がよいと出たとしても、患者様の状態を考えて、「この薬は体調的に使えないからこちらの薬にしましょう」ということも出てきます。チームカンファレンスで最終的に遺伝子解析結果をひとつの判断材料としつつ、どういう治療方法がよいかというのを提案していくことになります。
 また、この他の成果として、つい最近解析の一部にBioReTサーバーを使った研究論文が、Modern Pathologyという雑誌にアクセプトされました。

◆レポートシステムをお使い頂いてのご感想をお聞かせください

 まず、レポートシステムに入っているデータ解析の基本となるパイプラインについては、こちらからリクエストしてカスタマイズした部分もあり、データのクオリティはある程度満足したものが得られていると考えています。
 また、レポートの部分に関しては、4月からの「がん遺伝子診断部」で、実際にドクターとレポートを見ながら、患者様の一例一例をディスカッションして、治療方針を決めていくことが始まりますが、現場で治療を行うドクターが満足した内容になるかどうかは、実際にやってみて先生方の反応や、リクエストをもらって完成させていかなければいけないと考えております。
 レポートシステムの開発を進めてきた中で、必要情報はある程度レポートに入れられていると考えていますが、現場の先生方がどう判断するかは、私自身も興味深い部分ですので、更に良いシステムにしていきたいな、と考えております。

◆今後のクリニカルシーケンスの発展についてどのような期待をお持ちですか

 現在は、まだNGSの臨床での有用性や正確性が世の中に受け入れられていない段階で、クリニカルシーケンスを臨床の現場に浸透させるには、やはり解析パイプラインの精度が鍵となると考えています。
 品質を担保するために、ひとつのサンプルの解析結果を2種類あるいは3種類のパイプラインに流して、出てきた解析結果をつき合わせて、本当にどのパイプラインでもコールされるような変異なのかの実証が必要です。あるパイプラインではコールされるけど、別のパイプラインではコールされないという状況になった場合、その理由がサンプルのクオリティの問題なのか、解析パイプラインのソフトウェアの問題なのか、アルゴリズムの問題なのか検証していく必要があります。ですから、レポートシステムを改良していく中では、アメリエフはアメリエフの強みをもった解析システムを作っていただきつつも、我々の持っている別のパイプラインの弱点が出てきた際、相互的にカバーしあいながらパイプラインを強固にしていくことが求められます。他のバイオインフォマティクス会社やシステムとコラボレーションという形で情報共有しながらクリニカルシーケンスを根付かせることが大事かなと思っています。

インタビュー:2016年3月